たかやま
「こないだ思ったんだけど、『ペットボトル』の文字詰め、すげー難しいんすよ」
いの:
「へー」
たかやま
「あっちを立てればこっちが立たずというかね」
やまもと:
「そうなんすか」
「文字詰める」って当たり前のように使ってますけど、聞き馴染みのない方もいると思うので説明しますね。
はい、こちら。なんか難しいという、ペットボトル。上の画像は打ちっぱなし、つまり「PC上で文字を打って、なんの調整もしていない」状態です。
ちょっとしばらく見てみてください。なんか、気になる点ないですか?
そう、ここ。ここの空間、空きすぎじゃないすか?「ペッ、トボ、トル」って見えません?このように、文字はそれぞれ形が違うので、隣接するものとの関係によって、広すぎたり狭すぎたり、というのが出てくる。これをいい感じに調整するのが「文字詰め」だと思っといてください。すごいざっくり説明ですけども。
(しかしこの文字詰め、文字組というやつは奥が深すぎて、ある偉いデザイナーの人は「文字と文字の間に宇宙がある」つってましたが、よし完璧だ!マスターした!と言える日が果たして死ぬまでにくるのかどうか、多分こない、というレベルであります。我々は実務経験4、5年程度なんですけど、少なくともそんくらいだとその未来は全然見えません)
話は事務所内にもどりますが。
たかやま
「……」
やまもと:
「……」
いの:
「はははははははははははは!」
やまもと:
「!?」
いの:
「(ペットボトルの文字間を調整しながら)いやこれは難しい」
やまもと:
「まじで?俺もやってみよう……ははははは!」
……というわけで、「“ペットボトル”文字組大会」という、クソ地味な大会が開催されました。3人で。
フォントは「ゴシックMB101 Bold」、サイズは「100級」を基準とし、これに調整を加える。使用アプリケーションはIllustrator。
試しにさっきの気になったところ、詰めてみますと、こうなります。
まあいい感じになった…けど、まだ何か、気になる…。
ペットボトルって「ペット」「ボトル」じゃないですか。意味的にもそうだし、字面的にも、6文字のちょうど中心で分かれますから。なのに、「ペット」のほうがスッカスカ。小さい「ッ」とか入ってるし。一方それに比べると、「ボトル」の方はギチギチ。だからちょうど3文字づつ、左右シンメトリーにバランスよく並べようとすると、「ペット」の方がスッカスカに見えちゃう。かといって左側を詰め気味にすると、中心がずれる感じがする。ムズい。
上の画像を見るとわかるように、単語の最初と最後の「ペ」と「ル」。文字の形のせいで下側に空白ができています。これ単語の途中だとそんな気にならないかもしれないんですが、最初と最後がこれだと気になります。何というか、この2文字だけ浮いてる感じに見えるというか…。「ぺ」なんてナナメってますからね。ムズい。
いの:
「“ぺ”、左側にちょっとだけ回転させるとマシになるかも。あと“ッ”は右側」
やまもと:
「ほんとだ」
たかやま
「ほんとだ」
ペットボトルには「ト」という文字が二つ含まれます。これがムズいポイントなんですが、なぜかというと「ト」には縦線が含まれるからです。つまりこれによってなんとなーく区切られてしまうわけです。また、「トボト」の3文字だけが、この単語中で「上下にいっぱい」の文字で、つまりこの3つが強いわけです。「ボ」とか、音的にも強いし。
先ほど申し上げたようにペットボトルという単語は、意味的には「ペット」「ボトル」と分割されうるわけですが、一方で形だけで見ると、「ペッ、トボト、ル」に見えてくる。つまり「トボト」はくっつけすぎると良くないような気がするんですが、しかし離しすぎても単語としてまとまらないしなあ…という悩ましさ。ムズい。
さて、先ほどまで述べたようなムズいポイントに試行錯誤ののち、各人の組んだ「ペットボトル」が壁に貼られました。一人づつ見ていきましょう。
やまもと:
「えー、いのさんのあれをアイデアをお借りして、「ペ」は左に1度、「ッ」は右に0.5度、回転させてます。「ットボト」はちょっと小さくしていて、99.5級とかそんくらい。「ル」は大きくして102級で、「ペ」はさらに大きくしてて、105級ですね。
あと、「ペ」と「ル」はちょいベースライン下げてますね。「ペット」と「ボトル」の間はわかりやすいくらいに分けようとしてたんですけど、分けすぎても単語に見えないから、ちょうど程よいところを探そうとしている感じですね」
いの:
「3人の中で一番、「ペット」と「ボトル」の間あけてる感じですね」
たかやま
「あと多分、「ぺ」と「ル」、けっこう級数あげてるからか、ちょっと益荒男ぶりって感じが。強めっていうか」
いの:
「あー。」
やまもと:
「たしかに。上下が揃うからでしょうね。MB101、わりと太め・強めなフォントだから、最初と最後が小さいと気持ち悪いというか。たぶんそこを揃えようとしたんだと思います。でもちょっと大きくしすぎたかも」
たかやま
「えっと、「ぺ」をちょっと大きくしてて。山本くんほどじゃないけど。で、「ぺ」は2度、左に回転してます。で、「ッ」が82〜3%くらいに落として、ウェイト太くしてって感じ。「ペット」「ボトル」の間はそんなに強く分けず。で、「ル」はベースライン結構下げたんですけど。ちょっと下げすぎたかな」
やまもと:
「「ッ」を一番小さくしてるのが印象的ですね。」
たかやま
「これは以前、偉いデザイナーの人に聞いたんだけど、フォントって本文用に設計されてるから、見出しに使うときは小さい文字は小さくするって。だからそれを意識しつつ」
いの:
「確かに一番見出しっぽいかもしれない」
いの:
「私は、「ぺ」を2度左回転して。「ッ」を右に2度回転して、級数は小さくして、0.1mmだけ罫線で太らせてます。他と揃えるために。そんなに、山本さんほどはペットとボトルは離してないかな」
やまもと:
「単語としてのまとまりは一番あるかもね」
いの:
「そうですね、意味とかよりは全体の感じで考えたからかな…ただ、「ル」はなんか下がって見えるな。やっぱ」
たかやま
「全員そうだけど、未だ「ぺ」気になるよね」
いの:
「(笑)そうっすね」
やまもと:
「色々頑張ったけど。」
本大会は以上です。誰が優勝とかも特にないです。皆さんは誰の「ペットボトル」が一番良かったでしょうか。また、「俺の方がいいペットボトルを組めるぞ」という人はぜひ「ペットボトル」を組んで送りつけてください。それではペットボトル。
(ペットボトル)